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【第4話】

「思いやり」「感謝の気持ち」「志」


神戸北野の異人館前で

 子どもたちと向き合って、はや30年が経とうとしています。これまで私がこの仕事を続けられたのは、子どもたちの笑顔があったから、多少体調が良くないときでも、がんばって子どもたちの前に出ていきました。決して勉強ができる子がかわいいわけではありません。ほんとうに困って、私を頼ってくれる生徒が、「先生、テストけっこうできたよ」って、言いに来てくれた時、「あぁ、ほんとによかったな」と心からうれしく思うものです。

 こんなことを言ったら、怒られそうですが、「できる子は、どこへ行ってもできるんです」。でも、できてあたりまえ、そこには、私でなきゃならないわけじゃないんです。だから、「感謝」とかいう発想もないようです。もちろん、勉強もできて、人に対する感謝の気持ちや思いやりの気持ちが備わっている生徒、ペガサスにはいます。

小学校からずっと通ってきてくれていて、今では薬学部の6年生で、いよいよ来年は長い6年間の大学生活を卒業して、就職ということになりました。もちろん難関の「薬剤師」の国家試験に合格しなければなりませんが。
卒業したらどうするの?そう聞いたら、薬品会社へでも就職するのかと思ったら、彼は躊躇わうこともぜず、「ぼくがお世話になった地元の病院の薬剤師になるつもりです」。彼の目は曇りもなく、そう言うのを聞いて、心底「えらい!」そう思いました。

時折遊びに来て、近況報告をしてくれるんです。その成長ぶりを見て、生徒と教師という関係だけでなく、人としての心のつながりを感じて私は心からうれしく涙が溢れそうになりました。「じゃぁ、先生元気で!また来るわ」と言って慣れ親しんだ教室を後にする、彼の背中がとても大きく見えたものです。きっと、本物の薬剤師になったらもっとしっかりして、でも「おっさん」になっているかもしれません。

 そう言えば、私が現在指導している生徒の親が、何十年か前に教えた教え子だったなんてこともよくあります。親とは言え、私の前では中学生だった頃の気持ちが今でもあるのか、昔の自分を見られているからバツが悪いのか…親子2代に渡って指導しているということも私にとっては誇りです。

そう、教育というのは塾だから「勉強」だけ教えていればいいというのは、間違っていると思います。もちろんそれは最優先ですが、もっと人として「思いやりの心とか」とか「感謝すること」、そんなあたりまえの事も、こうした付き合いの中で伝えていけたら…、そうそれが、私の子どもたちへの思いなんだと、思っています。


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